「千と千尋」アニメーターが明かす業界の現実。
初任給わずか7,000円!?

「世界中でジブリを弾く」というテーマで、ギターを片手に世界中をめぐるYouTuber「Ghibli Ojisan(ジブリおじさん)」(登録者数9.6万人)が、『千と千尋の神隠し』でアニメーターをしていた男性と対談し、業界のリアルに迫りました。

動画のコメントをきっかけに知り合う

今から1年半ほど前の2018年5月7日、ジブリおじさんは「台湾・九份で『いつも何度でも』を弾いてみた(ソロギター、千と千尋の神隠し、Spirited Away、Always With Me, Fingerstyle Guitar Cover)」という動画を投稿しました。

映画「千と千尋の神隠し」のテーマ曲をモチーフとなったとも言われる「九份」で演奏するこの動画は国内外の視聴者を感動させ、今日までに約189万回再生されています。
スタジオジブリ所属ではないものの、アニメーターとしてこの作品の制作に携わっていたというモーリーさんもそのうちの1人で、動画にこのようなコメントを残していました。

作画は苦しくて苦しくて、映画館に見に行った時、映画館のトイレで小学生がツマラナイと話していたのを聞いて、悲しくて。その後宮崎さんが賞を貰っても、自分には関係なくて。
でも、あれから20年以上が経ち、このような動画が立ち上がり、多くの人が面白かったと感想を聞けて、やっと自分のやった仕事に少しだけ誇らしさを感じられます

すると、このコメントはジブリおじさんを含めた多くの人の共感を呼び、1つのコメントに8,000を超える高評価が寄せられるなど大きな話題となりました。
このコメントをきっかけに2人は知り合い、今回の対談が成立したようです。

YouTuberが元アニメーターと対談

2019年10月16日、「千と千尋の神隠しの制作スタッフが語る!制作現場のリアルと猟師に転職した理由」を投稿しました。

アニメーターとして「機動戦士ガンダム」や「アンパンマン」といった有名作品の制作に携わったモーリーさんは、5年ほど前に「大して絵がうまくないためこれ以上この世界で生きていくことはできない」と感じ、猟師に転身したとのこと。

動画の中では、モーリーさんの手がけた下書きが公開されていますが、この絵のクオリティで「大して絵がうまくない」というのは、制作現場のレベルが高いのでしょうか、それとも単にモーリーさんが謙遜しているだけなのでしょうか。
本人にしか分からないこともあるのかもしれません。

YouTube

アニメの現場はお金も厳しい

モーリーさんは、アニメ制作の現場は「お金も厳しい業界」だと、その過酷さを語っています。

1枚書いて僕たちの場合500円くらい。1日2枚しか描けなかったら1,000円ですよ。
アニメーションの世界はいまだに、1枚いくらとか、そういった報酬形態が多いと思います。
作画監督でも、そこら辺のサラリーマンよりちょっと良いくらい。

モーリーさんの場合、就職した最初の月の給料はたった7,000円(担当した原画50枚×1枚当たり150円)。
アニメーターとして働いている間は風呂なし・トイレ共用で家賃2万3千円のアパートに住んでいたようです。

お金に加えて、忙しさも尋常でない制作現場。
夜9時までの仕事でも12時を超えて働くのはもはや当たり前で、自分のように鼻血や血尿が止まらなくなるスタッフも後を絶たないと、モーリ-さんは語ります。

楽しい瞬間もある

厳しさばかりが注目されるアニメーションの制作現場ですが「楽しい瞬間もある」とモーリーさんは話します。

上手い人の絵が見れるっていうのは、すべてのアニメーターの一番の喜びだと思います。
白黒の、生で原画マンが書いた絵を見るってのは、極上の喜びなんです。

千と千尋のアニメーターをしていたときは、宮崎駿氏が手掛けたレイアウト(原画の前の段階)を見る機会があったようですが、それを見た時は「それだけで感動」したと話しています。

「やりがい搾取」が問題視される時代

モーリーさんの語るアニメーション制作の楽しさについて、「お金に変えられない価値」と評価したジブリおじさんですが、最近ではお金で問題になることも増えています。

今月10日には、大ヒット映画「海獣の子供」を制作した会社に対して、制作進行を担当していた男性社員が残業代の支払いを求める訴訟を起こしています。
男性はアニメ制作現場の過酷さを「正直、アニメ業界で働いていると、隣の同僚が明日死んじゃうんじゃないか、という不安がある」と表現。
働きに対する正当な報酬が支払われていな現状に「『やりがいの搾取』みたいなものになってしまう。魅力的な仕事ということでごまかされてはいけない」と一石を投じています。
(参考:弁護士ドットコム「『海獣の子供』アニメ制作会社の社員、未払い残業代求めて提訴『やりがい搾取、ごまかされないで』」)

作画のデジタル化など、モーリーさんの働いていた当時から変わったこともありますが、制作現場の過酷さは今でも深刻な問題となっています。

大変な仕事を実感させられる

アニメーターとしての経験を活かしたアルバイトをきっかけに、現在は猟師として生活しているモーリーさん。
動画後半では、狩りの様子や1日のスケジュールといった、猟師の生活の話を聞くことができました。

元アニメーター、現猟師という変わった経歴の人物との対談には、再生回数こそ少ないものの、非常にリアルな話が詰まっていました。
コメント欄では

「改めてですが、大変な仕事ですね、、、」
「1枚書いて金額変わらないなら、プロ意識ない制作会社が手掛ければそりゃ作画崩壊も起きるわなぁ。」
「こういう現状聞いちゃうと日本の文化の1つとか言われても素直に喜べないよなぁ 難しいのかもしれないけどなんとか環境よくしてあげてほしい」

といった、現場の過酷さを実感した視聴者からのコメントが寄せられています。

アニメーターをきっかけに猟師になったり、コメントをきっかけにYouTuberとの対談が成立したりと、世の中では想像しなかったことが頻繁に起こるものなのかもしれません。